−fraise−

fraiseはフランス語で「いちご」。いちごケーキのような甘酸っぱい恋愛話で至福のひとときを。

消された太田の名前

      2017/06/21

中学3年のそろそろ卒業を迎えようとしたある日の話。

長い一生のうちで、多分最も傷ついた出来事だ。

 

中学3年にクラス替えになり、いきなり太田さんが好きになったのだ。

それもムチャクチャ好きになってしまった。

自分でもなぜこれほど好きになったのか分からない程、好きになった。

太田さんは少しぽっちゃりぎみで、色白でとても勉強が出来た。

笑顔が素敵だった。

 

僕は気が弱い。

「好きだ」なんて打ち明ける事など死んでも出来ない。

太田さんはと言うと特に僕の事をどうとも思っていない様だった。

何か一気に太田さんとの距離を縮める方法はないか?

但し、決して断られたり恥をかかない方法だ。

 

毎日考えた。

結局、なかった。

直接、好きだとか付き合って下さいと言って断られたらどうする。

ラブレターを靴箱に入れても同じ事だ。

考えて考えて結論が出た。

既成事実を作る事だ。

卒業が迫っている。

その案を一週間後に決行する事にした。

それからの一週間はもちろんほとんど眠れなかった。

決行の前の日はまったく眠れなかった。

 

そして遂に当日、僕はいつもより2時間早く家を出た。

クラスに着いた。

もちろん誰もいない。

昨日、掃除当番が拭いたきれいな黒板が僕の前にある。

僕は意を決してチョークを手にして、黒板に書いた。

相合傘マークを書いた。

そして、右に僕の名字、太田と書いた。
(実は僕も太田姓だ)

そして、左に太田さんの笑顔を思い浮かべながら太田と書いた。

この時は少し手が震えた。

 

これで既成事実が出来た。

誰かが僕たちの関係を揶揄して黒板に書いた、そうみんなは思うだろう。

太田さんもきっとこれから太田君を意識し出すだろう。

 

それから2時間、誰にも見つからないように近くの公園の隅に隠れた。

そして、始業のギリギリにクラスに入った。

案の上、みんなは大騒ぎをしている。

これで作戦成功……。

じゃなかった。
太田さんの横の名前が竹原になっている。

竹原は「よほーっ」とか叫んで踊っている。

その竹原を押しのけ今度は福田が竹原を消して福田とチョークで書くと……。

 

当の太田さんと言えば、いつもの笑顔を浮かべて男子たちを見ていた。

 - 恋愛「片思い」 , , , , , , ,